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リスクマネジメント NEW 2026.08.21(金)

【不動産判例紹介】「名義を借りただけ」は通用しない――最高裁が示した宅建業の名義貸しと、一般の買主・投資家が学ぶべきこと

【不動産判例紹介】「名義を借りただけ」は通用しない――最高裁が示した宅建業の名義貸しと、一般の買主・投資家が学ぶべきこと

不動産取引では、「誰と契約しているのか」が明確であることは、取引の安全を支える大前提です。
しかし現実には、契約書に記載された会社と営業担当の名刺に書かれた会社が違っていたり、打ち合わせのたびに担当者が変わり、肩書きも役割もよく分からない人物が同席しているといった状況に遭遇することは決して珍しくありません。

もちろん、グループ会社間で役割分担を行うこと自体は違法ではありません。しかし、その境界線を越え、「免許を持つ会社は名前だけで、実際の取引は別の無免許者が行っている」という状態になれば、それは宅地建物取引業法が厳しく禁止する「名義貸し」に該当する可能性があります。

令和3年6月29日の最高裁判決は、この問題について非常に明確なメッセージを示しました。

「無免許者が宅建業者から名義を借りて不動産取引を行い、
その利益を分配する合意は、公序良俗に反し無効である。」

本件は一般個人が騙されたという話ではなく、業者側の内輪揉めによる利益配分を巡る訴訟でした。しかし、この判決が示した本質は、不動産市場全体の信頼性を守るという点にあります。そしてその考え方は、一般の個人投資家や不動産購入者にとっても決して他人事ではありません。

事案の概要:無免許者が不動産会社の名義を利用した取引の実態

本件では、宅建業免許を持たないXが、不動産会社Y1の名義を利用して不動産取引を行いました。

📌 形式上の契約主体の裏で動いていた実務

  • 形式上はY1が売主・買主だが、物件情報の取得、売却先の選定、仲介会社との折衝、契約書案や重要事項説明書案の作成など、実務のほぼすべてを無免許者Xが担当。
  • 利益についても、Y1には300万円の「名義貸し料」を支払い、それ以外の利益はXが取得するという取り決めを締結。
  • 物件は約1億3,000万円で購入され、約1億6,200万円で売却。
  • その後、利益分配を巡って両者が対立し、Xが残額約1,300万円の支払いを求めて提訴。

最高裁は、本件を契約書の文言だけでは判断しませんでした。形式上はY1が契約主体となっていても、実際に取引を支配していたのは無免許者であるXでした。さらにXは、本件一件限りではなく、継続的に不動産事業を営む計画を有していたことも認定されています。

裁判所はこのような実態を踏まえ、「宅建業法が採用する免許制度を潜脱する行為」であると判断しました。宅建業法では無免許営業と名義貸しの双方が禁止され、刑事罰も設けられています。最高裁は、名義を借りる合意と利益分配契約は不可分一体であり、利益分配だけを有効と考えることはできないと判示し、結果として本件の利益分配契約は公序良俗違反として無効であると判断されました。

一般の個人投資家や不動産購入者にも他人事ではない理由

本件訴訟そのものは業者同士の利益配分を巡る争いであり、一般の買主や投資家が同じ立場になることは通常ありません。しかし、この判判決から学ぶべきことは少なくありません。

例えば、実際の取引の場で「実際は誰が責任者なのだろう」と感じる場面に遭遇することがあります。

  • ・契約書にはA社と書かれているのに、担当者はB社の名刺を差し出す
  • ・打ち合わせのたびに新しい人物が現れ、決債権者が誰なのか分からない
  • ・役職も立場も説明されないまま、「この人が詳しいので」とだけ紹介される

こうした状況そのものが直ちに違法というわけではありません。企業グループでは、複数会社が連携して案件を進めることも珍しくないからです。しかし、「誰が契約主体で、誰が責任を負うのか」という基本的な説明が曖昧なまま取引が進むのであれば、一度立ち止まる価値はあります。

遠慮して確認できない関係は、信頼関係とは言えない

実際には、なんとなく目の前の状況に疑問を持っても「こんなことを聞いたら失礼ではないか」という心理が働くこともあるでしょう。しかし、不動産取引は数千万円から数億円に及ぶこともある重要な契約です。

契約相手が誰なのか。責任を負うのは誰なのか。担当者はどの会社に所属しているのか。これらを確認することは決して失礼ではありません。むしろ、それすら確認できない空気があるのであれば、その時点で健全な信頼関係は成立していないと考えるべきでしょう。

本当に透明性のある事業者であれば、そのような質問には明確に説明できるはずです。「あなたの指示監督者は誰ですか?」と言われ、答えられない会社員などいないのですから。逆に、説明を嫌がったり、話をはぐらかしたり、回答が二転三転するようであれば、それ自体が一つのリスクシグナルになり得ます。

本件が示す「実態を見る」という考え方の本質

本判決で最高裁が繰り返し重視したのは、「形式ではなく実態を見る」という姿勢でした。

誰が案件を持ち込み、誰が意思決定を行い、誰が利益を得て、誰が責任を負うのか。その実態を見た結果、最高裁は「これは実質的に無免許者が宅建業を営んでいる」と判断しました。この考え方は、不動産実務全体にも通じます。契約書だけを見て安心するのではなく、取引全体の構造を見ることが重要なのです。

まとめ:相手の肩書きや名刺だけで安心せず、責任の所在を確認する

令和3年最高裁判決は、宅建業法における名義貸しを「免許制度を潜脱する反社会性の強い行為」と位置付け、その利益分配契約まで公序良俗違反として無効と判断しました。これは、不動産業界のコンプライアンスにとって極めて重要な判例です。

一方で、この判決は一般の個人投資家や不動産購入者にも一つの示唆を与えています。それは、「契約相手が誰なのか分からない」「実際に責任を負う人が見えない」と感じる取引には慎重になるべきだということです。

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【参考文献】
・最高裁判所第三小法廷 令和3年6月29日判決(民集75巻5号1621頁)

※本記事は提供された裁判事例に基づく一般的な法理の解説であり、個別具体的な取引や法的トラブルにおける成果を保証するものではありません。実際の不動産契約や法的手続きに際しては、弁護士や宅地建物取引士などの専門家へご相談ください。