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資産防衛・税務 2026.08.07(金)

不動産を持つだけで本当に相続対策になる?「税金の計算」よりも「物件の良さ」が大切な理由

不動産を持つだけで本当に相続対策になる?「税金の計算」よりも「物件の良さ」が大切な理由

地主の方や、個人名義で賃貸マンション・アパートを保有する不動産オーナーにとって、長期的な資産形成と安定した賃貸経営を考える上で、将来の「相続税」への備えは非常に重要なテーマです。

不動産という資産は、現金や有価証券などの他の資産に比べて「相続税評価額の算出において一定の配慮がなされやすい」という特徴を持っています。しかし、この仕組みが有効に機能するのは、あくまで『購入した物件が、将来も安定した市場性と高い収益性を維持し続けていること』が大前提となります。

どれだけ税金シミュレーションを綿密に組み立てても、土台となる物件そのものの実質的な価値を見誤ってしまっては、本来の安定した事業承継という目的が果たせなくなる恐れがあります。今回は、不動産オーナーをとりまく相続税の仕組みと、安定した賃貸経営の鍵を握る「物件の見極め(目利き)」の重要性について詳しく解説します。


1. 基礎知識:なぜ個人で不動産を持つと「相続税評価」が下がるのか?

相続税は、亡くなった人の財産全体の「相続税評価額」を算出し、そこから基礎控除を差し引いた金額に対して課税されます。個人名義の不動産が資産承継において注目される理由は、「実際の取引価格(時価)よりも、税法上の規定に基づいて計算される評価額が低くなる」という特徴にあります。

  • 土地の評価(路線価方式):時価の約8割が目安
    道路ごとに設定された「路線価」を基準に計算するため、実際の取引価格(時価)の約80%を目安に評価額が算出されます。
  • 建物の評価(固定資産税評価額):建築費の約7割が目安
    建物の相続税評価は、毎年の固定資産税の算出基準となる評価額をそのまま使用します。これは実際の建築費(時価)の約50%〜70%に設定されることが一般的です。

例えば、現金1億円をそのまま保有している場合は「1億円」として評価され課税対象となりますが、1億円で不動産を取得した場合、相続税評価額は6,000万円〜8,000万円程度に落ち着く仕組みになっています。これが、個人が不動産を持つことで相続税評価額は下がる理由です。


2. 賃貸にすることで適用される「さらなる評価減」と「特例」

自分が居住するためではなく、第三者に貸し出す「賃貸用(アパートやマンションなど)」として運用している場合、個人オーナーにはさらなる税制優遇措置が適用される可能性があります。

  • 貸家建付地(かしやたてつけち)と貸家の評価減
    入居者の権利(借家権)が借地借家法等で保護されている分、オーナー自身の自由な処分や利用に一定の制限が生じるため、建物と土地の評価額からそれぞれ一律30%(満室時)などが差し引かれます。結果として、土地の評価額は自身で利用する土地に比べて約15%〜20%低く算出されます。
  • 小規模宅地等の特例(貸付事業用宅地等)の適用
    個人オーナーで不動産貸付業を行っている土地は、一定の要件を満たすことで、200平方メートルまでの面積について土地の評価額を50%減額できるという、非常に手厚い特例を受けることができます。

※ただし、近年の税制改正により「相続開始前3年以内に新たに貸付事業を始めた土地」については、原則としてこの特例の対象外となるなど、実態を伴わない急激な駆け込み対策に対する適正化(規制)は年々厳しくなっています。長期にわたる適正な賃貸経営の実態があって初めて、これらの恩恵が受けられます。


3. 経営の見極め(目利き)を誤った際の見落としがちな留意点

ここまで評価減の仕組みを解説してきましたが、これらはすべて「適切な賃貸経営が行われていること」を前提としています。物件の見極め(目利き)を怠り、単に評価額を引き下げることだけを目的に物件を選んでしまうと、残された家族は想定外のリスクが生じる可能性があります。

① 納税資金の確保に影響を及ぼす「収益性」の課題

相続税は、原則として「亡くなってから10ヶ月以内に現金で一括納税」しなければなりません。不動産の評価額を低く抑えて税額を低減できたとしても、資産のほとんどが不動産で手元に十分な現金がなければ、円滑な納税が難しくなります。
物件の見極めが不十分で、毎年の手残り現金(キャッシュフロー)がほとんど蓄積されないような物件の場合、相続発生時に納税資金の確保に苦慮し、結果として大切な不動産を納税のために売却せざるを得なくなるという本末転倒な事態を招きかねません。

② 空室率の上昇による「評価減の不適用リスク」

前述した賃貸不動産の評価減や小規模宅地等の特例は、あくまで「実際に人が入居して稼働している割合(賃貸割合)」に応じて按分計算されます。
地域の需要予測を見誤り、相続発生のタイミングでアパートに多くの空室が生じていた場合、空室部分については優遇措置が適用されず、自用地(自分が使う土地)に近い高い評価額のまま課税されるリスクがあります。常に高い入居率を維持できる「物件そのものの市場性」があって初めて、税務上のメリットが確実なものとなります。

③ 遺産分割の難しさと資産価値の下落

現金であれば相続人に対して1円単位できれいに等分できますが、1棟のアパートや土地を物理的に分けることは困難です。
立地や相場の見極めが悪く、将来的に資産価値や家賃水準が大幅に下落するような物件を遺してしまうと、相続人間での遺産分割協議が難航し、円満な親族関係に影響を及ぼすケースがあります。また、名義を安易に共有にしてしまうと、将来の売却や大規模修繕に全員の同意が必要となり、結果として身動きの取りづらい資産になってしまうため注意が必要です。


4. まとめ:円滑な資産承継の第一歩は「健全な物件選定」から

個人オーナーにおける相続税への備えの本質は、単に「税金計算上の評価額を引き下げること」だけではありません。一番重要なのは、「相続が発生したときに、次の世代が納税に困らないだけの確実な事業原資(家賃収入)を稼ぎ続け、かつ将来の売却や分割が必要になったときにも高く評価される優良な資産を遺すこと」です。

いくら税法上の特例や評価減の仕組みが魅力的であっても、立地条件が厳しく、将来の修繕リスクが予測できず、相場より高く取得してしまった物件であれば、それは結果として次の世代への重い負担になってしまいます。

名義の手続きや目先の税務計算といったテクニックに目を奪われる前に、まずは「その物件は、将来にわたって安定した賃貸需要を維持できるか?」「次の世代が引き継いだときにも、健全に賃貸経営を続けられる資産か?」という物件そのものの市場性(収益性と資産性)を最優先に考えるべきではないでしょうか。確かな見極めによって選ばれた物件を手堅く保有・運営することこそが、大切な家族と資産を次世代へとつなぐ、確かな土台となります。

【ご注意・免責事項】

  • 本記事は個人名義における不動産相続税の一般的な仕組みとリスクを客観的に解説したものであり、特定の物件の購入や将来の投資成果、および具体的な税務効果を保証するものではありません。
  • 税制は随時変更される可能性があるため、実際のお手続きの際は必ず国税庁ホームページ等で最新の税制をご確認ください。また、著しく巨額の譲渡や所得が発生する場合の最低税額負担(ミニマムタックス)の適用など、個別の状況によって税負担は大きく異なります。
  • 物件の賃貸需要や将来の資産価値、修繕費用の発生確率は、地域の市場環境や個別要因によって大きく変動します。具体的な相続対策や物件選定にあたっては、事前に資産税に強い税理士や専門の不動産コンサルタント等へ個別にご相談されることを推奨いたします。